Global Reachグローバル展開する企業を支援

MENU

コラム|Column

パネルディスカッション:中国ビジネスでの成功の秘訣

第1回:中国で成功している企業とその理由

バックナンバー

2017/03/10

巨大市場である中国において、ビジネスを成功に導く秘訣とは何でしょうか。
2016年6月、IIJ主催「中国クラウドソリューションセミナー」において中国で活躍する4名を迎えてパネルディスカッションを行い、中国ビジネスでの成功の秘訣を赤裸々に語っていただきました。その様子を3回に分けてお届けいたします。

パネリスト紹介

中国アジアITジャーナリスト
山谷 剛史

利用者の視点から、長年アジア全域のコンシューマー製品の動向をウォッチ
「現地の情報を生々しく、日本人に読みやすくわかりやすく」をモットーに、中国やインドなどアジア諸国のIT事情をルポする。アスキー等で現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を執筆・講演。日本だけでなく中国の媒体でも多数記事を連載。日本と昆明に拠点を持つ。

日経BP上海社 董事長・総経理
藤田 憲治

日本企業のIT課題に精通し、上海に拠点をもつ日本企業と幅広く親交
日経BP社にてIT/PC関連の技術系専門記者として活動した後、1998年以降、ネットワークセキュリティの分野をメインに記者活動を続け、2000年に専門雑誌『日経ネットワークセキュリティ』を創刊。2005年に日本最大のパソコン雑誌『日経パソコン』の編集長に就任。2010年にパソコン局長、2014年にデジタル事業担当補佐。2015年からグローバル事業を担い、日経BP社執行役員、日経BP中国社董事長兼総経理に就任。2015年3月に上海に着任。

Shanghai Data Solution Co., Ltd. Marketing & Sales Dept. Deputy General Manager
彭 晨 (パン チェン)

中国のITに関わる法規制や最新のIT動向に精通
1994年から2002年まで上海張江グループの工業園区管理サービス部マネージャーとして企業通信の課題解決を行う。その後、Shanghai Data Solution社(以降「SDS社」)に移り、2002年から現在までマーケテイング&セールス部門の副総経理を務め、データセンター事業に関わるサービス企画や販売促進を行う。現在は同社の提供するクラウドサービスの戦略・マーケット開拓を担当。

IIJ Global Solutions China Inc. 技術統括部 部長
李 天一

日本企業、中国企業双方の文化を理解し、日中の橋渡し役を務める
中国山東省出身。日本の大学院への留学を経てIIJに新卒入社。ネットワークインテグレーション部門でプロジェクトマネジメントを担当したのち、2012年IIJグループの中国拠点立ち上げに伴い上海へ赴任。クラウドサービスの立ち上げ、販売促進、戦略策定などを統括的にリードする。

中国で成功している企業はなぜ成功したか

IIJ:
山谷さん、中国で成功している現地企業と、その会社が成功できた理由を教えてください。

目線の先に商品を置く

山谷:
中国では人々の目線の先にある企業がかなり勝ちやすいと思います。中国は人口の母数が多いので、目に入り利用してみて気にいった、という人だけでもものすごい数が残るわけです。コストパフォーマンス、性能、品質ももちろん大事ですが、それ以上に「話題になるかどうか」が鍵ではないでしょうか。

例えば最近、中国人の爆買いが話題になっていますが、爆買いで人気の商品は日本で定番の商品とは限りません。日本では聞いたこともない商品が中国でブレイクすることがありますが、これは「爆買い対策商品」です。日本であまり売れない商品を安く仕入れ、SNSで「この商品はいいよ」というクチコミを拡散させ、大量販売することで一儲けする仕組みです。中国ではこれを生業としている人がいるくらいなので、商品がよければ売れるというわけではありません。

そのため、商品が人々の目線に入ることがすごく大事です。昆明でも他の都市でも、スマートフォンが普及していなかった頃は、バス停、鉄道駅、ショッピングモールで広告を打てばそれなりに響いていました。ただ、近年の人々の目線はスマホの端末で、外を向いていません。では、どうやって人々の目線の先に商品を置くかですが、BATと呼ばれる地場のサービスプロバイダである百度(バイドゥ)、阿里巴巴(アリババ)、 騰訊控股(テンセント)と連携してインターネット上の露出を増やすこと、日本でいうとお年玉にあたる紅包(ホンバオ)を使ったキャンペーンを打つこと、さらに中国の伝統行事に合わせてイベントを行うことの3つです。中国では子どもの日や国慶節にはオンラインゲームのデザインが丸ごと変わることが当たり前になっています。こういった現状やトレンドについていく会社が生き残っていると思います。

IIJ:
山谷さんありがとうございます。「目線」に着目したコメントは現地で活動されている山谷さんならではだと思います。次に、上海赴任生活が1年になられる藤田さんに伺います。中国で成功している日本企業と、その成功の理由を教えてください。

全世界に通じる商品力

藤田:
ものすごく難しい質問ですね。何をもって成功とするか難しいところですが、成功している日本企業は、そんなに多くないと思います。中国市場に出てすぐに目に見える結果が出せるほど中国市場は簡単ではなく、日本市場とまったく違います。日本で流行しているからといって中国でも売れるとは限りません。色々な方と話しをする中で見えてきたのは3つのポイントです。

1つ目は、当たり前ですが、トップの本気度です。中国市場では進出してすぐに順調にビジネスができるわけではありません。数年、時には数十年かけてビジネスが黒字になるような市場ですので、数年で儲からないと打ち切ってしまう企業もありますが、どれだけ中国市場に本気で取り組めるか、言い換えると忍耐度が大切になります。消費大国である中国、製造業より日用品等の消耗品ビジネスが大きくなっていますが、今ですと、良品計画、ヤクルト、TOTOが伸びています。これらの企業のトップの本気度はかなりのものと言えます。

2つ目は、これが1番大事だと思いますが適応力です。まず、日本の商品をそのまま中国へ持って行っても売れません。中国は嗜好がものすごいスピードで変化しますが、日本はそれについていけていない。日本人の感覚で中国人の嗜好に合わせようとしてもやはり難しいのです。この変化するスピードに適応できるかどうか、特にB to C市場においてはとても大事だと思います。日本企業は現地会社の重要なポストを日本人が占めることが多いですが、欧米企業ではポストの現地化が進んでいます。ポストの現地化が進んでいる企業のほうが、中国市場(の嗜好の変化)についていっていると思います。

3つ目は商品力です。日本だけで通じる商品ではなく、全世界に通じる商品力が必要です。ご存知のとおり、爆買いのために日本へ行き、特定の商品をいくつもいくつも買っていく中国人が大勢います。爆買いで人気のある商品を扱う企業のトップに「どうしてそんなにうまくいくのでしょうか?」と直球でお聞きしたことがあります。今でもすごく心に残っているのですが、「われわれは商品を売っているのではないんです。文化を売っているんです。」とおっしゃいました。商品やサービスに思いを持っている企業は、どこの国に行っても強いと言えるのではないでしょうか。

IIJ:
ありがとうございます。結果が出るまでの忍耐力、めまぐるしい変化を続ける環境への適応力、全世界に通じる商品力がキーワードですね。次に彭さんにお聞きします。競争の激しい上海という地で、SDS社はデータセンター事業者として「優良企業賞」を受賞した、成功しているIT企業です。SDS社がこのような大きな成功を収めた秘訣を教えてください。

時代を先取り、フォーカスする

彭:
SDS社は通信サービスプロバイダとして1999年に設立され、20年弱の歴史を持っています。SDS社が成功しているIT企業になれた背景には3つの要因があると思います。

1つ目は、早い段階から国際化を進めたことです。当社は、設立当初からアメリカの大手通信事業者AT&Tや、日本の大手通信会社NTT、KDDIと色々な分野でパートナーシップを組んでいました。先進国の先進企業からマネジメントの手法などを学ぶことができた点がよかったと思っています。

2つ目は、SDS社が中国の国有企業であることです。SDS社の主要株主は中国政府であり、上海市の市政府が持つ長江工業園区に属しています。中国政府からの支持、外資系企業では取りにくいライセンスの取得をスムーズに行うことができます。

3つ目は、専門性です。SDS社は長きに渡り、IT分野の中でもデータセンター事業を中心に、周辺サービスとしてネットワークサービスの提供を行っています。中国の他のキャリア系の企業よりもデータセンターサービスおよび周辺サービスには優位性を持っていると思います。

IIJ:
ここで少し質問を変えまして、李さんには中国のIT業界で躍進しているサービス、人気のあるアプリケーションをお聞きしたいと思います。李さん、いかがでしょうか?

従来の慣習を打破するアプリ

李:
私は4年前に上海に赴任してきましたが、この4年間でアプリが生活の隅々にまで浸透してきたと思います。買い物、支払い、お弁当デリバリ、洗車、クリーニングと、本当に多岐にわたるサービスがアプリで行われます。

人気があるのは、たとえば、いわゆるUberの中国版タクシー配車サービスアプリです。通常のタクシーだけではなく、自家用車を使った白タクも呼べますし、運転代行依頼、ちょっと乗ってみたい新車の試乗予約までできます。さらに最近はタクシーの相乗りもできるようになりました。このアプリが出始めて1年半くらいですが、アプリ登録人数は約3億人に達し、夜間や金曜日などのタクシー需要の多い時間帯は、アプリを使わずにタクシーを呼ぶことがほぼ不可能になるくらい普及しています。アプリ会社は、タクシー利用後の支払い、領収書サービスまで包括的に対応しているほか、支払いデータの活用も検討しています。

近頃のアプリは、アリババが提供する支付宝(アリペイ)や微信(ウェイシン)が提供する支払いサービスとシームレスにつながっており、アプリ内で支払いまで完結します。中国は前払い文化でしたが、アプリの普及に伴い後払い方式になったのは非常に革新的だと思います。

支払いプラットフォームでは、ユーザーの利用頻度、利用金額の傾向、利用時間などから総合的にユーザーの信用度スコアをつけており、この情報を有料で提供して新しいビジネスにつなげています。例えば、雨降りの金曜日の夜、お酒を飲んで家に帰ろうする顧客からの配車依頼が殺到しますが、信用度スコア情報から信用度が高い顧客順に配車するというサービスに使われています。

IIJ:
李さんありがとうございます。ちなみに山谷さん、このような配車サービス、雲南省にもありますか?

山谷:
はい、雲南省でも展開されてはいますが、普及のスピードは遅くて、それほど多くのタクシーが対応しているわけではありません。雲南省はうんと内陸部になりますが、沿岸部では、李さんの紹介してくれたアプリを使って、消費者としてトレンドに乗っていないと、普通に生活をすることすら難しいという状況になってきていると思います。

(連載第2回に続く)

本記事は、2016年6月8日に開催した中国クラウドソリューションセミナー:シフトする中国市場で日本企業が進む道のプログラムの一つ、パネルディスカッション:中国ビジネスでの成功の秘訣をとりまとめたものです。