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コラム|Column

中国データセンター事業者の課題

調査会社IDCの最新報告によると、2016年の中国データセンターの市場規模は1千億人民元を突破する見込みで、世界最大規模にまで成長しています。もともと1990年以降の急速な経済発展に伴ってデータセンターの重要性が大きく報じられ、2010年頃までに中国全土に40万ヶ所以上のデータセンターが作られました。しかし、そのうちの大部分は沿岸地域に集中していて、床面積が400㎡以下と小規模なデータセンターでした。データセンターの電力使用効率を表すPUE値は半数以上のデータセンターにおいて2.5前後で、日本国内における標準的なデータセンターのPUE値が1.5~2.0であることを考えると、先進国のデータセンターよりもはるかに効率が悪いものでした。2010年以後は、インターネット、クラウドコンピュティングやビッグデータの躍進により、大規模データセンターの需要が増加し、政府の監督の下2011年から2013年6月までに超大型のデータセンター(1万ラック超)23ヶ所、大型データセンター(3千~1万ラック)42ヶ所を建設するとことが目標とされ、実際に数多くのデータセンターが建設されました。しかし蓋を開けてみると、需要が供給をはるかに下回っており、データセンター全体の活用率は10%未満と言われています。過剰供給の中国データセンター市場を背景に、事業者間の競争は激化の一途をたどっています。

上海数訊信息技術(SDS)

中国では、概ね5種類のデータセンター事業者が存在しています。1つ目は中国電信、中国聯通をはじめとするナショナルキャリアのデータセンター、2つ目は上海数訊信息技術(SDS)などキャリアと地方政府の合弁会社が運営するデータセンター、3つ目はiAdvantageなどの外資企業と政府機関との合弁会社が運営するデータセンター、4つ目は21vianet(世紀互聯)などの民間事業者のデータセンター、最後にNeuSoft(東軟集団)などのSIer/アウトソーシング事業者のデータセンターです。特にデータセンターサービス事業を本業とする合弁会社や民間事業者が競争優位性を高めるために、データセンター以外に市場潜在性のある付加価値の高い新たなサービス検討するなど、積極的に新しいビジネス分野への進出を模索しています。

中国プライベートクラウド市場を狙った上海数訊信息技術(SDS)

SDS 金橋データーセンター(上海)

IIJは2016年1月のクラウドサービス「IIJ GIO CHINAサービス」のリニューアルに伴い、新たに上海数訊信息技術(SDS)とパートナーシップを組みました。ここで少し、SDS社について紹介します。SDS社は、上海市政府直下の張江ハイテック、上海大衆交通、上海電信(中国電信の上海子会社)などによる共同出資で、1999年に設立された国営企業です。元々は中国のシリコンバレーとも呼ばれる張江ハイテックパークにオフィスを構えるIT企業向けにデータセンターサービスを提供するために作られた会社ですが、現在、上海3ヶ所、北京1ヶ所にハイスペックなTier4レベル相当のデータセンターを展開し、ISPサービス、ファイバ網の運用管理も行っており、銀行、保険などの金融機関をはじめ、現地大手企業、外資系企業など600社を超えるお客様にインフラを提供しています。

金橋データーセンター内のモニタールーム

中国では、2009年以降IT企業を中心に広まったクラウドサービスは、その利活用が既に一般企業にまで広がっています。特に最近、アリババの「阿里雲」をはじめとするパブリッククラウドよりも、インフラの安全性、システム設計の柔軟性に富んだプライベートクラウドを求める大手企業や政府系、金融系機関が増えていますが、自社で、仮想環境の構築技術と運用経験のあるIT人材の確保が容易ではありません。また、中国仮想化市場におけるVMwareの市場占有率は90%を超えていますが、ほとんどがオンプレミス環境の上で運用されています。今の中国では、お客様にとって運用負荷の少ないプライベートクラウド環境をサービスとして提供できる事業者はまだいません。SDS社は、そのような中国のプライベートクラウド市場の将来性を見越して、高度なクラウド構築技術、豊富な運用経験と導入実績をもったIIJと提携しました。一方、IIJとしては、SDSと協力し、中国現地での販売および運用支援体制を充実させるとともに、中国現地企業、日系企業のお客様へのクラウドサービス普及、浸透を図れます。両社はVMwareの仮想化基盤上で自由に設計・構築できるプライベートクラウドサービス「IIJ GIO CHINAサービス VWシリーズ」の提供をとおして、近い将来、中国プライベートクラウドのマーケットリーダーになることを目指しています。

なお、SDS本社は大学のキャンパスのように広大な敷地を持つ張江ハイテックパークの一角にあります。社員の平均年齢が非常に低く、眼鏡をかけている真面目そうな、「IT男(中国ではIT業界で働く高収入の男性をこのように呼ぶ)」が集まっています。社員の大半は中国語とともに流暢な英語を話し、イギリスやアメリカの大学を卒業した後に帰国してSDS社に入社した社員も多数在籍しています。また、社内にサッカー、バスケットボール、卓球などいろいろなサークルがあり、活気が溢れる、まるで理工学系の大学の様な社風です。アリババを初め、テンセント、バイドゥ、そしてSDS社のように、若く勢いのあるIT企業がこれからの中国経済を牽引する重要な勢力になるでしょう。