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コラム|Column

有名な電脳街のいま

中国でIT事情を知るには、パソコン街を見るのがいい。パソコン街にはだいたいスマートフォンショップも多数ある。

中国最大の電脳街といえば、北京の北西に位置する「中関村(ジョングァンツゥン)」。そこには無数のパソコンショップが入ったビルが何棟もある。かつてのパソコンショップ街だったころの秋葉原とも異なる独特な雰囲気だ。中関村というと狭義ではパソコンショップが集まる、地下鉄「中関村」駅周辺の地域をいうが、広義ではポータルサイトの「新浪」「捜狐」「網易」、検索の「百度」など、IT企業・ハイテク企業があり、また「北京大学」「清華大学」「人民大学」などを擁する、つくばのような研究都市だ。

フロアを減らす北京のパソコンビル

そんな中国の電脳街の代名詞的な「中関村」がなんとも寂しい状態となっている。本来はパソコンショップが密集するはずのフロアには、テナント不在の空き空間が目立ち、フロアそのものが閉鎖されるフロアも。客不在の建物を歩くと、何かのゲームか映画のように崖っぷちに立たされている客引きが集まってきて、「ボス、ノートパソコン買いたいんでしょ?こっち来てくださいよ」と声をしつこくかけてくる。

2011年頃から兆候はあった。2013年には中国メディアに「中関村電子売場現退租潮:電子売場進入”黄昏”(中関村の電子売場でテナントが出ていく動き。電子売場は黄昏に進入)」という記事が、2014年には「中関村電子市場為何屡遭誠信質疑?(中関村の電子市場はなぜ信用できなくなったか)」という記事が出てきている。しつこく呼ばれ、捕まったら最後、強引に製品を買わされる。まだちゃんとした商品で、価格も適正ならいいが、ニセモノをつかまされたという話も出ている。ひやかしすらできず、もはや中関村のパソコン市場は、北京でも屈指の危険な場所になってしまったという感すらある。

その原因はご存知の通り、オンラインショップの台頭だ。阿里巴巴(アリババ)系のオンラインショッピングサイトの淘宝網(TAOBAO)に天猫(Tmall)に、それに対抗する家電系オンラインショッピングサイトの「京東商城」「蘇寧易購」など充実している。リアルショップよりも値段は安い上に、北京で午前中に注文すれば、明日と言わずその日のうちに届けてくれる。

筆者が拠点とする雲南省の省都「昆明」ともなると、大都市だから物流網はあるので届くには届くのだが、注文から商品到着まで1週間かかることはザラだ。そんな地方都市でも、「値段こそすべて」という消費者は多く、オンラインショッピングの利用者は増える一方で、電脳街の価値は低下している。

北京の電脳街にただよう「黄昏感」のわけ

北京の中関村には特別黄昏感がある。これはいくつか原因がある。

昔は店が詰まっていたフロアもこのありさま

まずひとつに「案外品揃えがいい商品ジャンルが少ないこと」が挙げられる。電脳街には必ずレノボやソニーやデルをはじめとしたメーカー代理店があるが、売っているのは主力の製品だけ。主力でない製品の中に、キラリと光る尖った製品がありがちなのだが、そうでない製品は注文するため時間がかかる。また中国随一の電脳街なら、「こだわりのパーツ店」「変なデジタル製品を扱う店」など個性ある店は欲しいもの。ところがどの店も、売っているものはだいたい同じ上に、商品の展示が乱雑で何を売っているのかわからず、冷やかし半分で興味を示せば最後、店員は買ってもらうよう執拗にねばる。

ふたつめに「市内から遠いこと」が挙げられる。いくら地下鉄網が北京オリンピックを契機に発達したとはいえ、中関村は遠い。実際の距離はそう遠くないが、時間的感覚でいうと、東京で例えるなら都内から志木や柏にいくような感覚である。北京の電脳街に行きたければ、規模は小さいが「朝陽門外」にもある。東京で例えるなら中野程度の時間的距離感覚だ。

また致命的なのが、盆地にある北京は空気が極めて汚れていて、そもそもとして外出しようというモチベーションがわかないのだ。北京は特別商品を運ぶバイクが多く行き交っているのも大気汚染の背景がある。

他の電脳街は、北京ほど電脳街が不利になる状況ではないが、どの都市であれ、ネットショップに比べ、商品のラインアップは多く、値段は安い。最近注目のデジタル商品は、スマートフォンからパソコンからテレビから周辺機器まで、小米(Xiaomi)のようにメーカーがネット直販をするきらいがある。ネット直販限定となってしまえば、リアルショップは特に数量限定の注目商品を、転売して売らざるを得なくなる。こうした状況から中国各地の電脳街も、やがて北京のようになっていく可能性はある。

電脳街をさす一筋の光

唯一電脳街が出せる強みといえば、自作パソコンとパソコン・スマートフォンの修理だろう。ショップの方で無料でパソコンを組立ててくれて、しかも(海賊版)ソフトまで一通りインストールするので、自作パソコンのハードルは高くない。自作パソコンを買うと決まればどこかのパーツショップに入り、スペックを相談し、価格を交渉しよう。最終的にOKとなれば、マザーボードメーカー代理店、HDD代理店、メモリー代理店、パソコンケース代理店、CPU代理店、モニター代理店などを店員が巡ってパーツを集め、組んでもらえる。とはいえ世界的なノートパソコンへのシフトに加え、中国人は面子が大事で、持ち物でステータスを現す人々なので、自作パソコンには見向きもしない。iPhoneやThinkPadやiBookなどのちょっと高いノートパソコンのニーズがあるこのご時世、自作パソコンを好んで欲しがる顧客は、ゲーマーの顧客か、中高年の顧客か、中小企業などの法人くらいだ。

筆者自身のパソコンも、パソコン修理屋で
その場で修理してもらった

商売の国・中国では、ショップブランドパソコンや修理サービスを販売するオンラインショップもある。影響力あるオンラインショッピングサイトの「京東商城」も、パソコンやスマートフォンの修理サービスを14年10月よりはじめた。とはいえ今のところ「目の前で見られて信用できる点」「手間はかかるがすぐに修理が終わる点」からリアルショップ志向は強いようだ。パソコンやスマートフォンは日々使う道具だから、1秒でも早く復活した製品を使いたいのだろう。

今、都市部では、若者のいる家庭にパソコンが普及し、若者はおろか中年や子供までスマートフォンを持ち、あらゆるサービスがオンライン化し、激しい同業者の価格競争が行われている。2014年は、海外商品の輸入販売、医薬品販売、eラーニングの販売、タクシー乗車アプリ、海外旅行のパッケージ販売、金融商品販売までがインターネットで競争が起き、ネット販売の空白地帯が埋められてきている。

北京で目立つ宅配バイク

ネットではなくリアルでは、都市部でショッピングモールが続々とできて、都市内の買い物をショッピングモールだけで済ますようになってきている。ショッピングモールとは無縁で、オンラインショッピングと敵対関係にある電脳街には閑古鳥がないているが、一方それでもなお必要とされる対面式の販売サービスもある。中国ビジネスを考えるときは、「寂れる電脳街で輝く修理屋」などの存在を思い出すと、いい展開方法が思いつくのではなかろうか。

山谷 剛史

1976年東京都生まれ。中国アジアITジャーナリスト。
現地の情報を生々しく、日本人に読みやすくわかりやすくをモットーとし、中国やインドなどアジア諸国のIT事情をルポする。2002年より中国雲南省昆明を拠点とし、現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を執筆講演。日本だけでなく中国の媒体でも多数記事を連載。